望月護『ドラッカーの実践経営哲学』PHP
ドラッカーが支持される理由は「企業は人間の集団であり、人間をやる気にさせなければ企業は発展しない」という本質が伝わるからである。
マネジメント(経営管理)は、外部に対応することが目的であって内部に対応することが目的ではない。
売上が落ちた時は街に出て、そこに行き交う人を見る。その人たちがどんなものに興味を示すか、どんなものを手にとって見るか観察する。街は情報源であり、羅針盤だ(伊藤雅俊)。
とかく二代目は先代と変わったことをやりたがるが、お客さんは変わったことを望んでいるわけではない(中坊公平)。
幹部は自ら直接お客を回って本当の情報をつかんで、売れ行き不振の原因を探る以外に方法はないのである。アポイントもとらず、お供も連れずに一人で外に出かけて行って、問屋や代理店を回るのではなく、末端の小売店を回って話を聞いたり、お客と話をする以外に本当の原因は分からない。そうしてはじめて不振の本当の原因をつかむことができるのである。
どうすれば付加価値(粗利益)を増やすことができるのだろうか。
- 一つは、生産性をあげることによって粗利益を増やす方法である。三人でやっている仕事を二人にして一人当たりの売上を増やしたり、一坪当たりの売上を増やしたり、機械一台当たりの売上を増やしたり、トラック一時間当たりの売上を増やしたり、小売店の陳列棚当たりの売上を増やすのがこれである。
- 二つは、外部に払う費用を減らして粗利益を増やす方法である。ウォルマートは仕入先のメーカーに店ごと、製品ごとの売れ行き情報を知らせている。売れ行き情報を知らせることによって、一つ一つ指示せずにメーカーから店舗に製品を自動的に補充させて外部に払う費用を減らしているのである。
- 三つは、回転率を高めて粗利益を増やす方法である。「高く売るより早く売れ」である。一カ月一つ売れるのと三日で一つ売れるのでは粗利益は十倍違うのだ。アパレルメーカーが小売店を経営しているのは回転率を高めるためである。売れ残り品はバーゲンで売り切ってしまう。
- 四つは、在庫を減らして粗利益を増やす方法である。トヨタは店頭まで納入する時間から逆算して、後工程が前工程へ必要な部品を取りに行く方法で在庫を最少に抑えている。デルコンピュータは注文を受けてから組み立てるしくみを作り、ライバルメーカーの在庫の十分の一以下に在庫を抑えている。
- 以上の方法はすでにお客が存在していることを前提にして社内を中心にしてできることである。しかしこれらの方法だけでは価格競争から逃れることはできない。最後の方法は、生き残るためにも、企業の責任としても、取り組まなければならない方法である。イノベーションとマーケティングによって、新製品を開発して売上を増やし利益をつくりだす方法である。
ウォルトンは、他人と同じ事をしていて成功するわけがないという。「逆流へ向かって泳げ」という有名なコトバを残しているが、「すべての固定概念、すべての常識を破れ」という意味だ。
コトラーは「利益を上げることがマーケティングの目標だ」と言い、マーケティングの手順を次のように挙げている。
- 狙うお客つまり市場を決める
- 何を売り物にするか、高級品を売り物にするのか、安全性を売り物にするのか決める
- 売り物に見合った価格をつける
- お客が買わなければならない理由と意味を考える
- どこで買えるか、品切れを起こさないようにするか、流通戦略を決める
- 最も安いコストでお客に届ける方法を決める
企業には主な活動が四つある。販売、開発、現業、管理の四つである。一番大事な活動は販売活動である。販売活動が活発でなければ、今日の利益を得ることはできないからである。
- 販売活動は今日の利益を上げる活動であり
- 開発活動は明日の利益を上げる活動であり
- 現業活動は日常の繰返し仕事を行う活動であり
- 管理活動は日常の繰返し仕事を管理する活動である
サム・ウォルトンが観察したところによれば、万引きを防ぐ簡単な方法は、やさしそうな年配の女性を雇って挨拶させれば誰も盗みを働かなくなるという。こういうことを並の人間は気がつかない。
会社が小さかった時には、○○が出たらその場でみんなで叩きつぶしたが、会社が大きくなると、
- ○○とはどういう生物かを研究し調査する
- ○○を退治するためにどういう方法があるか、方法論を比較検討する
- ○○退治のために実行委員会を設ける、という手順を踏む
この間に三年位かかり、いつの間にか部屋中が○○だらけになって、誰も退治することができなくなる(GMのステンペル)。
阿片戦争に敗れた当時の清国の宰相曽国藩は、国が滅びる時には三つの兆しが顕れると言っている。
- 情実人事が罷り通ってでたらめな人たちがやりたい放題のでたらめをやり、善良な人たちがおし黙る
- 外部から非難されることをおそれて情報をみんなで隠すから、とり繕ったきれいごとの報告しかされなくなる
- 倫理観が頽廃して、何が正しいことで、何が悪いことか、誰にも分からなくなる
分からない話にはウラがある。新聞記者やコンサルタントの書いたことをそのまま鵜呑みにするな。数字を鵜呑みにするな。
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