世阿弥『花伝書(風姿花伝)』講談社文庫
この時期の稽古では、たとえ、うしろ指をさして人に笑われても、それを気にしないで、「おれの一生の分かれ目はここだ」と、一生涯にかけて能を捨てない決心を固める以外に、稽古の方法はない。
自分の芸の実力の程度を十分に承知していれば、その実力程度の花は一生涯無くならない。自己の実力以上に上手いとうぬぼれると、元来持っていた実力から生まれる花も無くなってしまう。(渡部)
人間にはだれでも生まれつきすぐれた持ちまえがあるものである。
上手な者にも悪いところがあり、下手な者にも善いところは必ずあるものだ。それをはたで気がつく者もないし、当人も知らない。上手はうまいという名声をそら頼みにし、芸達者におおわれて、悪いところに気が付かない。下手は、元来工夫ということがないから、悪いところをも知らぬ代りに、稀に善いところがあるのも気が付かない。そこで、上手も下手も、互いに他人に悪いところをたずねるがよい。しかしながら、実力をそなえ、それを発揮する工夫を究めたような者は、みずから反省してこれを知るであろう。どんなに変てこりんなシテでも、もし善いところがあると思ったならば、上手な者もこれをまねするがよい。これが上達する第一の方法だ。
しばらくたって見るから、また珍しくも思うのである。その上に人の好みも色々で、謡・所作・物まねなど、ところによってとりどりだから、どの風体でもやってなくては、駄目なのだ。
花というのは、見る人の心に珍しいと感じるのが花である。
くれぐれも初心を忘れてはならぬ。
能をやる時に、万事に抜け目なく心を配ることが大切である。
秘すればこそ花になる。秘せねば花とはならぬというわけだ。
人の心に思いもよらぬ感動を催させるやり方、それが花というものだ。
秘事として、何か一つを各自専門の家々では人に知らせず残しておくのだ。ここでもう一つ考えておかなければならぬことは、たとえ、現さなくとも、こんな秘密を知っている人間だということさえも、他人に知られてはならない。
わが家の秘事として他人に知らせないことが、一生涯咲き続く花の主になる花というものだ。秘すればこそ花になる。秘さねば花とならぬ。
世の中は一切みな因果の関係である。
一人っ子であろうとも、才能の無い者には伝えてはならぬ。
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