内部利益率法(internal rate of return:IRR)
■IRRとは
現在価値法とともに割引キャッシュフロー法に属する。内部利益率とは、計画案のキャッシュフローの現在価値を投資のキャッシュフローと等しく(一致)するような割引率である。すなわち、割引率をいくらにすれば、キャッシュ・インフローの現在価値合計が投資額と同じになるのかを問題にするのである。内部利益率法の最大の長所は、貨幣の時間的要素を考慮に含めていることにある。
キャッシュ・インフローの現在価値合計=キャッシュ・アウトフロー(投資額)の現在価値
IRRは、DCF法による結果が「0」となる割引率のことである。DCF=0の時の割引率ということは、その割引率分のコストがかかった資金を使ってもちょうど損益がトントンになるということである。つまり、その投資を行うと、毎年IRRと同じ率で金利が稼げたのと同じことになるという意味である。別の言い方でいうと、IRR法はその投資案件についての1年間ごとの平均投資利回りのことである。
■IRRの考え方
基本的には最初に大きな投資をし、その後複数年にわたって収益が得られて初期の投資を回収する。その回収を考える際に、どのくらい高い割引率までその投資が耐えられるか、と考えるのである。高い割引率を将来のキャッシュフローにどんどんかけていくと次第に投資回収が難しくなっていき、ついにはある値以上になるとペイしなくなる。その境目となる割引率の値(IRR)が大きければ大きいほど投資機会としての筋が良い、魅力が大きいと考えるのである。
しかし、意思決定の対象となる事業や投資回収のライフサイクルにおけるキャッシュフローのパターンがさまざまに異なってくると、IRRの概念がうまく適用できないケースが出てくるのである。
■投資判定基準
- そのプロジェクトから生み出されるキャシュフローを予測する
- そのプロジェクトのIRRを計算する
- 採択:内部利益率>WACC 棄却:内部利益率<WACC
IRR法では、事前に投資の種類に応じてWACCをもとに最低限これだけは稼ぐ必要があるという投資利回り、つまりハードルレートを設定し、各投資案件のIRRがハードルレートを上回っている場合には実行し、下回った場合には実行しないことにする。
■長所
- 前もって必要利益率(割引率)を計算しておく必要がないため、実際には多くの企業で用いられている
- プロジェクトを内部利益率で比較できる
- 投資利回りで選別するので比較が簡単
■短所
- プロジェクトからの再投資が内部利益率で行われることを前提としている
- 計算がやや煩雑(例えば、後の年度にマイナスのネット・キャッシュ・インフローのあるとき、計算された内部利益率は2つ求められる)
- 投資利回りだけで選別することになるので、縮小均衡に陥る可能性がある
- 「IRRと資本コストの大小を比較することでNPVの正負を判定する」ことが、常にできるとは限らない
- 複数の投資案があるとき、IRRの大きい投資案がNPVも大きいとは限らない、つまりIRRの大小とNPVの大小が一致するとは限らない
- プロジェクトのキャッシュフローのパターンによっては、解が存在しない場合や、解が複数存在する場合があること。また、永続的にキャッシュフローが発生する場合は計算ができません
- IRR法はプロジェクトの規模の違いを反映しない。つまり、期間の短いプロジェクトほどIRRが高くなる傾向がある
櫻井通晴『管理会計』、加登豊・李建『ケースブックコストマネジメント』、浅田孝幸他『管理会計・入門』、西山茂『企業分析シナリオ』、渡辺康夫他『企業価値入門』、伊藤邦雄『企業価値評価』、石野雄一『ざっくり分かるファイナンス』
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