役員と役員給与
改正後の法人税法では、役員報酬・役員賞与・役員退職金の区分がなくなり、まとめて「役員給与」を表現するようになりました。
■法人税法上の役員
法人税法での役員とは、会社法に規定する取締役、執行役、会計参与、監査役、会計監査人などのほかに、使用人(従業員)以外の者で経営に従事している者、相談役、顧問、理事、参与、監事などで実質的に経営に従事している人をいいます。
■みなし役員
ところが、同族会社では、使用人であっても、一定の条件に該当する人は役員とみなすという規定があるのです。この規定を「みなし役員」といいます。同族会社の使用人のうち、一定の持株割合の条件に該当し、かつ、同族会社の経営に従事している人は、使用人にも関わらず、役員とみなされます。
「みなし役員」とされるかどうかの持株割合とは、その人が、
- 持株割合の大きい株主グループを順次合計して、持株割合がはじめて50%を超える上位3位以内の株主グループのいずれかに属しており、
- その使用人の属する株主グループの持株割合が10%を超えていること、そして、
- その使用人の持株割合(その配偶者およびこれらの者の持株割合が50%超である他の会社を含む)が5%を超えていること、
の3つの条件を満たす場合をいいます。最後の5%基準には、その人自身だけではなく、配偶者の持株割合と支配している会社の持株割合も含めることに注意してください。これらの条件を満たす人は、たとえ役員登記をしていなくとも税務上は純粋な役員とみなされます。もちろんこれらの持株割合の条件に該当しても、経営に従事していなければ「みなし役員」とはされません。
■使用人兼務役員
次の役職にある役員は使用人兼務役員となることはなることはできません。使用人兼務役員になれるのは役付役員以外です。
①社長、副社長、代表取締役、専務取締役、常務取締役などのいわゆる「役付役員」、②監査役、会計参与
取締役営業担当、取締役財務担当などの表記については、使用人兼務役員ではなく、役員の職務管掌として取り扱われ、使用人兼務役員と認められません。法人税法で認められている使用人兼務役員は、平取といわれる役のつかない「取締役」や「理事」、「参与」などに限られます。
同族会社では、一定の要件を満たす役員は平取であっても、使用人兼務役員になることができません。その要件は次のとおりです。
- 役員が同族会社の第3順位までの株主グループに属している
- 役員が属する株主グループの持分が10%を超えている
- 役員本人の持株割合が5%を超えている
以上の3点すべてに該当すると、取締役営業部長で実際に営業部長として働いていても、使用人兼務役員ではなくて「役員」とみなされます。
■執行役員
執行役員という肩書きは会社法では登場しません。したがって、税務上もその存在を認めていません。
執行役員は、通常の場合、みなし役員に該当しないとしている。
- 専務、常務等と呼称される者であっても、取締役として選任されていないことから、商法上の役員ではないため、会社の経営方針を決定する取締役会における議決権がないと考えられること
- 執行役員は、業務執行に係る責任を負っているが、これは取締役会より委任を受けた範囲内での日常業務における管理者としての責任であり、そのことをもって経営に従事しているとは認められないこと
したがって、通常の場合は、執行役員に対して支給する賞与は、使用人に対する賞与として損金算入することが認められる。ただし、執行役員が、上記の権限を超えて、経営に従事していると認められる場合には、その呼称や取締役として選任されていないという事実にかかわらず、みなし役員に該当することになり、その場合には、支給する賞与は役員に対する賞与として損金不算入となる。
■会社法上の役員給与
会社法では、取締役等に対する職務遂行の対価の支払いは、すべて「報酬等」と定義し、株主総会の決議によることとし、役員賞与の会計処理は、企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」に従い、費用処理されるのが適当とされる。
■法人税法上の役員給与
Ⅰ 定期同額給与
毎月決まった時期に支給される、同じ額の給与を定期同額給与といいます。損金算入ができる定期同額給与とは、次の要件を満たすものをいいます。
- 毎月支払われる時期が決まっていて、その事業年度を通じて支給額が同じであること
- 継続的に供与される経済的な利益で、その事業年度を通じて額が毎月おおむね一定であること
- その事業年度の開始の日から3ヵ月以内に改定された給与で、改正前、改正後とも、それぞれの支給時期における額が同額であること
- 会社の経営状況が著しく悪化したことを理由に給与の支給額を減らした場合、その事業年度内において改定前、改定後とも、それぞれの支給時期における額が同額であること
Ⅱ 事前確定届出給与
役員に賞与を支給しても、損金にできるようになりました。ただし、賞与の支給時期と金額をあらかじめ税務署に届け出る必要があります。それが、事前確定届出給与です。
Ⅲ 利益連動給与
利益連動給与は、非同族会社で一定の要件を満たすものについて、損金算入が認められるようになりました。
■役員給与に関するQ&A(平成18年6月)(平成20年12月)
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/5126.pdf
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf
■役員給与に関する質疑応答事例(平成18年12月)
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/02.pdf
高下淳子『法人税と経理処理のしくみがわかる本』、有賀靖典『同族会社の役員給与の決め方と節税法』、武田隆二編『新会社法と中小会社会計』、有賀靖典『同族会社の役員給与の決め方と節税法』、太田達也『「役員給与の実務」完全解説』、鈴木基史『「詳解」役員給与をめぐる税務と会計』
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