変動費と固定費
■変動費(variable costs)と固定費(fixed costs)
- 変動費とは、営業量の増減に応じて、総額において比例的に増減する原価をいう。その典型的な例は、製品の直接材料費や出来高給による直接労務費である。
- 固定費とは、営業量の増減とは無関係に、総額において一定期間変化せずに発生する原価をいう。その典型的な例は、職員の給料、定額法による減価償却費、固定資産税、火災保険料、賃借料などである。
■変動費と固定費の費用分解
中小企業庁の「中小企業の原価指標」によると、費用分解を次のように定めています。
①建設業
固定費:労務管理費、租税公課、地代家賃、保険料、法定福利費、福利厚生費、事務用品費、通信交通費、交通費、補償費、その他経費、役員報酬、従業員給料手当、退職金、修繕維持費、調査研究費、広告宣伝費、支払利息割引料、減価償却費、動力用水光熱費(一般管理費のみ)、その他営業費
変動費:材料費、労務費、外注費、仮設経費、動力用水光熱費(完成工事原価のみ)、運搬費、機械等経費、設計費、兼業原価
②製造業
固定費:直接労務費、間接労務費、福利厚生費、賄費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕費、電力料、ガス料、水道料、旅費交通費、その他製造経費、通信費、支払運賃、荷造費、消耗品費、広告宣伝費、交際接待費、役員給料手当、事務員販売員給料手当、支払利息割引料、租税公課、その他販売管理費
変動費:直接材料費、買入部品費、外注工賃、間接材料費、その他直接経費、重油等燃料費、当期製品仕入原価、期首製品棚卸高-期末製品棚卸高、酒税
(注)期首製品棚卸高と期末製品棚卸高は、本来は、このうちの変動費部分のみを取り出して控除すべき
③販売業(卸売業・小売業)
固定費:販売員給料手当、車両燃料費(卸売業の場合50%)、消耗品費、販売員旅費交通費、通信費、広告宣伝費、その他販売費、役員給料手当、事務員販売員給料手当、賄費、福利厚生費、減価償却費、交際接待費、土地建物賃借料、保険料(卸売業の場合50%)、修繕費、高熱水道料、支払利息割引料、租税公課、その他営業費
変動費:売上原価、支払運賃、支払荷造費、支払保管料、車両燃料費(卸売業の場合のみ50%該当)、車両修理費(卸売業の場合のみ50%該当)、保険料(卸売業の場合のみ50%該当)
④サービス業
固定費:直接従業員給料手当、役員給料手当、間接従業員給料手当、福利厚生費、賄費、消耗品費、広告宣伝費、車両燃料修理費、土地建物賃借料、減価償却費、保険料、支払利息割引料、租税公課、その他営業費
変動費:直接材料(商品)費、高熱水道動力費、外注費
◇サービス業では、コストは一種類しかないことをコスト管理の前提としなければならない。すなわち、存在するのは事業の全プロセスで発生するコストだけである。しかもそれは、一定期間において一定額が発生する固定費である。事実、伝統的な原価計算が行なっている固定費と変動費の区分は、サービス業ではほとんど意味がない(ドラッカー)。
■商品仕入高は変動費か
商品仕入高は、変動費にはならない。商品仕入高に期首棚卸高を加え、期末棚卸高を差し引くと商品売上原価という費用になり変動費となる。
■変動費・固定費型ビジネスの特徴
本郷説
- 変動費型ビジネスの特徴は、固定費はかからないが、その代わり粗利が低いことです。例えば、歩合制だけの営業マンしかおいていない不動産業、タクシー業などが典型です。歩合制ですから、仕事のないときは人件費がかかりません。その代わり、歩合の率を高くしないと、いい営業マンは来ませんから、いきおい粗利が低くなります。ですから、売上のわりに利益が出ないのです。その代わり、不況には強いのです。なにしろ、経費がかかりませんから
- 固定費型ビジネスの第一の特徴は、社内でかかる費用が重いことです。製造業とか小売業、飲食業も初期投資、設備投資がかかります。もう一つの特徴は、粗利が高い商売ということです。外部からの材料費の仕入が安いのですから、売上が増えれば増えるだけ儲かる仕組みになります。稼働率をどれだけ上げられるのかが決め手となります
- 変動費型は狩猟型、固定費型は農耕型のビジネス・商売なのです。
望月説
- 変動費型ビジネスの代表例としては、卸売や小売などの商品を仕入れて販売するビジネスがあります。インターネットでの物品販売は、固定費が少ないため売上が減少してもあまり損失は大きくならない変わりに、売上が増加してもあまり儲からないビジネスモデルだといえます。
- 固定費型ビジネスの代表例としは、多額の設備投資を行って製品を開発するメーカーやサービス業などがあります。固定費型ビジネスは、売上に対する固定費の割合が大きいため、売上が減少すると大きな損失が発生しますが、売上が増加すると大きく儲かる可能性があります。
- 固定費も変動費も少ないビジネスとしは、インターネットでのサービス業が考えられます。ヤフーやミクシィです。
小宮説
- IT産業は設備投資が少なくて済み、固定費も多くかからず、また、変動費も少なくてよい産業なのです
- 鉄鋼業などの装置産業では固定費が高く、その分変動費は低くなっています。卸売業などは逆で、固定費はそれほど多くかからないけれども、変動比率が高い事業である
青木説
- 変動費中心型のビジネスのメリットは損益分岐点の売上高が低い点です。そのため、少し売上が上がっても利益が発生し、逆に、少し売上が下がっても大きな赤字にはなりません。しかし、大きく売上が上がっても大きく利益が出ない点がデメリットです
- 固定費中心型のビジネスのメリットは大きく売上が上がった場合、大きく利益が出る点です。しかし、売上が下がった場合は、変動費で調整することができないため、赤字が大きくなる点がデメリットです
村井説
- 固定費依存型は損益トントンになるまでは大変ですが、一旦利益が出始めるとドンドン利益が出るので「ハイリスク・ハイリターン型」、これに対して変動費依存型は売上増減による損益増減の影響が少ない「ローリスク・ローリターン型」の会社といえます。このように、会社のコスト構造がリスクとリターンの重要な決定要因といえます
■CVP2つのパターン
◇固定費中心の経営
業種:鉄鋼・石油化学
資産構成:固定資産の割合が大きい
固定費:相対的に多い
変動比率:低い
損益分岐点の位置:比較的高い
売上増減による損益の振幅:損益の振幅が大きい。不況時には、簡単に赤字転落。好況時には、すぐに回復して大幅な黒字計上
経営の特徴:費用面は多少犠牲にしても、売上高増加を最重視するほうが合理性がある。その結果、投下資本利益率を向上できる
◇変動費中心の経営
業種:商社
資産構成:流動資産が多い
固定費:相対的に少ない
変動比率:高い
損益分岐点の位置:比較的低い
売上増減による損益の振幅:損益の振幅が小さい。好不況の波を比較的受けない
経営の特徴:費用管理が売上高増加に劣らず重要である。特に変動費の管理が重視され、変動費率の低下に努力する必要がある
岡本清『原価計算』、本郷孔洋『「会計的に見る!」技術』、望月実『課長の会計力』、小宮一慶『1秒!で財務諸表を読む方法』、森脇彬『経営分析実務相談』、青木寿幸他『かわいい決算書』、村井直志『儲けを生み出す「どんぶり勘定」のすすめ』、末松義章『倒産・粉飾を見分ける財務分析のしかた』、高下淳子『決算書を読みこなして経営分析ができる本』、ドラッカー『チェンジ・リーダーの条件』、池田正明『できる人の決算書の読み方』
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