会計操作のパターン
■利益調整と会計操作の関係
利益調整(earnings management)は、一般に「経営者が、会計上の見積りと判断および会計方針の選択などを通じて、一般に認められた会計基準の枠内で当期の利益を裁量的に測定するプロセス」として理解されている。利益調整は、次のように分類される。
- 当期の利益を過少に報告する守備的な利益調整(conservative earnings management)・・・ビックバス、引当金の過大計上、リストラ費用の過大計上、減損損失の過大計上
- 当期の利益を過剰に報告する攻撃的な利益調整(aggressive earnings management)・・・引当金の過小計上、減損損失の過小計上、棚卸資産の過大評価
- 両極の中間に位置する適度の利益調整(moderate earnings management)・・・利益平準化
■発生主義のもとで利益を捻出するのなら、認められた会計基準の範囲で、収入をなるべく前倒しで計上し、費用をなるべき先送りして計上してしまえばよいのです。このような利益計上の姿勢を「攻撃的利益調整」といいます。
一方、利益が出ていることを隠そうとする会社もあります。利益を少なく見せて税金を抑えたい同族会社等によく見られます。このように、利益をなるべく隠そうとするやり方は「守備的利益調整」あるいは「利益隠し」とよばれます。
1.損益計算書を使ったテクニック
①収益をなるべく前倒しで計上する
- 得意先に頼み込んで販売したことにする(利害関係者などの仲間内に販売する)
- まだ提供していないサービスの対価を売上とみなす
- 顧客がまだ支払い義務を負っていない段階(出荷ずみだが顧客の検収がすんでいない等)で収益を計上する
- 顧客と複数年にわたる契約をして、本来は複数年に分割して計上しなければならない売上を前倒しで計上する
②費用をなるべく先送りして計上する
- 人件費を資産計上して先送りする(費用を資産として計上する)
- なるべくゆっくり費用化する(償却等)
- 本当は費用化するべきものを費用化しない(減損資産の評価減又は償却を見送る)
- 引当金を十分に積まない
2.貸借対照表を使ったテクニック
①資産をふくらませる
- 資産の評価替え・再分類・オフバランス化
- 含み益がある株式や土地を市場で売って利益の捻出をする
- 含み益がある自社の土地や建物を売ってリースバックする
- M&A等のときに固定資産を再評価して、自社に都合のよい費用や収益を計上する
②負債をなるべく計上しない
- 引当金をなるべく計上しない
- これまで積み立てておいた引当金を本来の目的外の理由で取り崩す
3.連結決算を使ったテクニック
- 自社よりも割安な会社を買ってくる
- のれん代はゆっくり償却する
- 子会社株式を第三者に一部割り当てて持分変動損益を得る
- 連結に入らないような投資事業組合をつくり、そこに資産を売却するなどして自社に都合のよい資産評価を行う
■利益調整の実施状況
アメリカと日本の企業を対象にした実証分析により、企業の経営者は、①赤字を回避するため、②減益を回避するため、③利益予想値を上回るために、利益調整を行っていることが判明した。つまり、経営者は、①利益ゼロ、②前期の利益、③利益予想値のいずれかをベンチマークとして、それを超過するように利益調整を行っている。
売上高を予想値に合わせて調整する企業は相対的に少ないが、経常利益と当期純利益については、予想値をわずかでも上回るために報告利益を調整する企業が非常に多い。
須田一幸他『会計操作』、勝間和代『決算書の暗号を解け!』
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