田井野治郎論
■中小企業の二代目が現代的経営手法を導入して成功した例はきわめて少ない。中小企業の経営体質を改善するため、教科書的手法をそのまま持ち込もうとする人がいるが、これは必ず失敗する。中小企業の共通の目的は、何といっても儲けることである。
■せっかく儲けた金を利子の支払に当てる経営くらい、馬鹿らしいものはない。
■月次PLが作成されると、まず第一に所要の利益(株主配当、役員賞与、内部留保)が得られたかどうかを見なければならない。
■利益が所期の通り計上されていない場合、第一の手順は、「売上高」を見ることである。
■経営者は専門家とはまるで違った“ひらめき”をもっていなければならない。
■算出する経営比率は三つ
①粗利益率、②売上高営業利益率、③売上高純利益率
■損益分岐点を聞かれたとき、利益が出ているならば、毎月の売上高より若干下回ったところを答えればよく、赤字のときは上回った額を答えれば、当たらずとも遠からずということになるだろう。
■BSの留意点
①利益が計上されているが、それに比べて金繰りが良くない、②各部門とも忙しく動いているが、利益が出ない、③会社は真に安定した状態にあるかどうか、④倒産の危険はないか
■倒産原因
①売掛金が過大、②棚卸資産が過大、③設備投資が過大、④負債が過大、⑤赤字、⑥メインバンクをもたない、⑦ワンマン経営
■BSに求めるものは“金を生む力”のみでよい
①ぜい肉を切り落とす、②払うものは早く払う、③貸した金は早く取り立てる、④“骨董品”は早く処分する、⑤遊休土地・建物は売却する
■BSの吟味する科目
①現金預金、②受取手形、③売掛金、④商品・製品・仕掛品・材料、⑤支払手形、⑥買掛金
■資金繰りの要諦
資金繰りの要諦は、一言で言うと収入より支出を少なくすることである。資金を計画する場合には、次の前提条件がある。
- 収入はできるだけ少なく見積もること
- 支出は余裕をもって見積もること
- 資金計画を早目に立てること
- PLで利益が出ていても安心しないこと
- 融手や高利の金には絶対に手を出さないこと
- 手形払いは借金と考えること
- 支払手形管理を的確に行うこと
- 臨時の支出は早期に計画しておくこと
- 設備投資資金は長期借入金に頼ることとし、運転資金を流用しないこと
■金に苦しむ原因
①売上が伸びない、②預金があっても使えない、③売掛金の回収状況が悪い、④在庫が過大である、⑤設備が過大である、⑥借金が過大である、⑦利益が過小である、⑧経費が過大である、⑨原価率が高すぎる
■在庫が過大になる原因
①売上不振、②つくりすぎ、③売れない品物を抱えている、④品切れを恐れて、持ちすぎる、⑤生産主導型の会社で、設備・人員を遊休化したくないため製造を継続する、⑥下請け、納品業者を救済するため、資金事情も深く考えないで発注を継続する
■利益を多く計上するには、売上原価が低い、売上高が高い、経費が少ない、という三条件のうち、どれかが突出していることが必要である。
■企業の資金に余裕が生まれると、不動産業のように土地購入に血眼になったり、株に手を出したりする向きがないでもない。株による利益などは営業外利益としてPLに記載されるが、利益は本来、営業利益に求めるべきで、投機的なものに依存してはならない。そもそも真面目な営業行為からは一攫千金は不可能なはずである。もしこれに熱中するようになれば、時には大きな儲けにはなっても、圧倒的に損失のほうが多いものである。本業を軽んじ、サイドビジネスに精力を傾けることには、何としても同意でない。インフレを見越して借金し、それで不動産を購入するなども、決して賛同できるものではない。あくまでも本業にうちこみ、そのなかで利益を生み出して借金をゼロにする、この、きわめて小心翼翼とさえ言える経営方法こそ、われわれのめざすものである。
■当月の決算を翌月半ばに行ない、同時に向こう三ヵ月間の受注・売上見込表、資金繰表、PL、BSによって過去の状況と月末の現状が正しく示されるわけだから、これらを資料として関係者が月次決算方式ミーティングで論議をすれば、申し分ない事前措置を講ずることができるのである。
■高能率にして高賃金を支払うことこそ、従業員対策の最たるものである。
田井野治郎『社長が書いた「月次決算」経営法』
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