運転資本(資金)とは
運転資金については、いろいろな考え方がとられている。
■運転資本の定義
◇運転資本とは、(売上債権+棚卸資産-仕入債務)の有り高になるのか。
上記の式は、銀行など金融筋がとりあげてきたいわゆる所要運転資金量(所要資金、運転資金などともいう)であって、運転資本ではない。(正味)運転資本とは、working capital の訳語であって、流動資産と流動負債の差額である。
◇運転資金=流動資産(現預金を除く)-流動負債(短期借入金を除く)
◇運転資金=(受取手形+売掛金+在庫)-(支払手形+買掛金)
運転資金とは、ある意味で要借入金額なのです。
■業種別運転資金
(小売業、卸売業、サービス業、飲食店などの場合)
売掛金・受取手形+商品-買掛金・支払手形・前受金
(製造業の場合)
売掛金・受取手形+製品・仕掛品・原材料-買掛金・支払手形・前受金
(建設業の場合)
受取手形・完成工事未収入金+未成工事支出金-支払手形・工事未払金-未成工事受入金
■運転資金は、資金化をされるのを待たされている額であり、商売を続けるうえで自社が立て替えなければならない額。
■理論的に正しい運転資金
運転資金は会社が現在もっている生産販売設備を使って仕入、製造、販売を行うとともに管理活動も行うと生ずる収入と支出であると考えるならば、運転資金の収入が多いことと運転資金の支出が少ないことが望ましいわけである。したがってまた、このような運転資金の収支差額は多いほどよいと考えられる。なお、その場合にも売上代金の回収や仕入代金の支払などに無理のないこと、それらが適切に行われていることが必要であることはいうまでもない。
■運転資金が増えることによるデメリット
- 支払利息などの資金調達コストが増える
- 財務内容が悪化し倒産リスクが高まる
■運転資金を減らす方法
- 売上債権を減らす・・・①サイト(回収期間)を短縮する、②滞留債権を回収する、③ファクタリングを行う
- 在庫を削減する
- 支払サイトを延長する
■不健全資産と正味運転資本
- 不健全資産は資産と資本からともに落として考える
- 不健全資産の増加額は当期純利益からマイナスして考える
- 正味運転資本は不健全資産と担保定期預金を流動資産からマイナスして求める
- 正味運転資本の大幅マイナスは倒産の兆候
- 買戻条件付売上は、売上ではない
- 仲間取引は資金融通に利用されやすい
担保定期と滞留在庫、滞留債権、架空在庫、架空債権、不健全流動資産、つまりその他の流動資産の三つを流動資産から取り払って正味運転資本を算出する。大幅なマイナスは赤字の前兆というよりは倒産シグナルとお考えください。PLでの営業利益と支払利息、経常利益と雑収入の二つの比率と、正味運転資本のところだけ押さえていたできましたら、倒産は十分に予知できるものと思います。
■「日数」でモノサシを合わせると、必要な運転資金が見えてくる
例えば、売上に対する仕入の原価を70%、在庫を平均で売上の30日分持つとすると、在庫に必要なお金は売上高の21日分(30日×70%)となります。
仕入債務に関しても同様に、支払いまでの日数が50日の場合、これを原価率で換算すると、35日(50日×70%)になります。
こうやって、在庫と仕入債務の回転日数を原価率で調整することにより、必要な運転資金を売上代金の回収までの日数との差で把握できるようになります。その結果、商売に必要な運転資金が売上高の何日分であるか、を簡単に計算することができます。
つまり、お金が回収できるまで81日(在庫回転日数21日+売上債権回転日数60日)分のお金が必要なのに対して、商品代金の支払いを35日分待ってもらっていますから、この差46日分のお金が足りなくなるということになります。このお金が足りなくなる日数の差に、1日あたりの売上高を乗じた金額が、必要になる運転資金の金額ということです。
■運転資金を増やさないでキャッシュフローをよくする方法
- 支払条件のよいお客様には売上を拡大する
- 支払いの悪いお客様とは取引条件や取引を見直す
- 品切れ商品や原材料が途切れないように在庫管理を徹底し、在庫を減らす
- 仕入はマメに行う(複数の仕入先から購入して、競争をさせる)
- お客様からの支払条件と仕入先への支払条件を見直す
- 現金売上の比率を高め、売掛金の回収を早める
- 仕入から売上までのリードタイムを短縮する
- 原材料は効率的に使い、水道・電気・ガスを節約する
- 本社や工場の固定費を削減する
- 社長自ずから実践する
■売上高に対して何%の運転資金が不足するか
[正味運転資金の不足額(売掛債権の増加額+在庫の増加額)-買掛債務の増加額]/売上高の増加額
森脇彬『経営分析実務相談』、都井清史『粉飾決算の見分け方』、望月実『課長の会計力』、高下淳子『決算書を読みこなして経営分析ができる本』、児玉尚彦『会社のお金はどこへ消えた?』、棚橋隆司『財務革命』、鶴田彦夫『よくわかる資金繰りの実務』、棚橋隆司他『これで企業財務はよみがえる!』、FANアライアンス編『オーナー社長だからできる節税と資産づくり』、青木三十一『「資金繰り地獄」から抜け出す本』
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