自社株買いが株価に与える影響
自社株買いは、株式市場に自社の株価が割安であるというシグナルを送り、株価の水準訂正を促す手段として用いることができる。
自社株買いが株価に与える影響について厳密に考える場合には、保有現金を用いて自社株買いを行う場合と、負債を調達して自社株買いを行う場合に分けて考える必要がある。
前者の場合には、自社株買いは株価に影響を与えないといえる。この場合、自社株買いを行えば、企業の流通株式数が減るが、自社株購入に用いた現金分だけ資産の価値も減るので、企業が理論価格で自社株を買う限り、株式数の減少と資産(現金)の減少が見合って株価は変化しないのである。
後者の場合には、自社株買いによって資産総額と資産内容は変化せず、資本構成(負債と株主資本の割合)が変化することになる。したがって、自社株買いが株価にどのような影響を与えるかは、資本構成の変化が株価にどのような影響を与えるかという観点から判断される必要がある。
企業が負債を調達して自社株買いを行う場合には、それほど負債比率が高くない場合には株価にプラスになるが、負債比率が高い企業の場合には、自社株買いは逆に株価にマイナスになるといえるだろう。
以上の議論はあくまでも企業が理論価格で自社株を買うという前提であることに注意してほしい。もし理論価格よりも低い価格で自社株を買うことができれば、当然、株価にプラスになることになる。現実の世の中では、すべての株式が理論価格どおりということはありえない。もし自社株が明らかに理論価格よりも低ければ、企業はこの機会を利用して自社株買いを行うべきである。
日本企業の自社株買いと株価の関係をみると、自社株買いが株価にプラスになることが多いという結果が報告されている。自社株買いは経営者が自社株を割安とみている証拠と受け取られて、自社株買いは株価にプラスになるのだと解釈されることがある。これは自社株買いのアナウンスメント効果と呼ばれる。
ただし、自社株買いによって、企業が自社株以外に有望な投資機会がなくなったのだと解釈されると、逆に株価にマイナスに働く可能性もあるので注意が必要である。
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