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2014年2月20日 (木)

金子光晴『残酷と非情』

サルトルや、カミュのような文士が、コムニストに同情的で、アルジェその他の事件にたいしても、政治的発言をした。

スペインはいまなお、王政復古を考えている。

エノケンにしても、伴淳にしても、フランキー堺にしても、片すみの人生の酬われざる誠心の悲哀をいつもテーマにしているようだ。

日本では、戦捷国が裁判官となって決めた少数の戦争犯罪人に、戦争の責任を負わせてそれでけりがついたとしているらしいが、少なくとも、軍を食いものにして、利権の道具に利用しようとした商品たちは全部、戦争発頭人、加担者、蔭の主役で、より悪質な犯罪人であったといえる。

そんなエリート意識をふきこんだものは、やはり、明治政府の出世主義ということに尽きるようだ。

その結果の日韓併合とで、日本は、背後の大国に備えるばかりでなく、韓国人を搾取し、商人国の利潤によって世界の大国に伍するようになった。つまり、一石二鳥に成功したわけである。

数ある政治思想のなかで、もっとも官僚的で、実践道徳をモットーとした儒教が、二千年の支那のながい歴史を主導した。儒教思想ほど、かくれ穴のたくさんある、表面、厳粛でいながら、上が下をしっかりとおさえこむのに便利な思想はなく・・・・・

小国が大国を模倣する以上に慢心に近い、小国の大国並みな尊大さが生まれるいきさつを、どう証明していいか。

支那が、じぶんを中国とし、自力で、周囲の蛮民をおさえ、荒服の地まで貢物をとどけさせて、根拠を持続させることに、どんなに歴代の政府が苦心し、ときには有名無実をことばで飾り、虚飾の文化を、万々事情を承知のうえで芝居をうちながら継承し、体面をつくってきたかということは、・・・・・

英人快楽亭ブラックが、日本語で西洋奇談をうりものにして、寄席に出て、ジャンブルふうな腹の突き出た立派な押出しで、人気者になり、真打株になりさえした例がある。

残酷の意識なしでやっている残酷のほうが、そうでない残酷よりも、数等危険だということがいえる。

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