堀内智彦『2時間でわかる 図解KPIマネジメント入門』あさ出版
本書は、著書を通じての私の大師匠、堀内智彦先生の最新刊、渾身の一書だ。以下は、私の読書ノート。
■KPIとKGI
本書は、「KPI」(Key Performance Indicator)、訳すと重要業績評価指標についての本だ。
KPIとは、著者の定義によると、「目標達成度を測るためのプロセスないし結果の指標」。
なぜ、このKPIが注目されているのか。それは「全社員が経営目標を共有して業績回復に努める」ことが必要だからだ。
さてさて読者の皆さん、KPIはとりあえず置いといて、「KGI」(Key Goal Indicator)ってのがある。
KGIとは、重要目標達成指標。「Goal」という言葉が入っているように、経営の最終目標が達成されているかを計測するための指標。ROE(Return on Equity)なんか、まさにこれ。
これに対して、設定した経営目標に対して、どのような過程を通過すれば達成可能かを洗い出し、その過程をクリアできているか数値で計測するのがKPIだ。
つまり、スタート➡KPI(プロセス)➡KGI(ゴール) の流れね。KGIに到達するための過程として設定されるのがKPIだ。
まとめると、KGIは「ROE=株主・投資家から見た結果目標」、KPIは「経営者・経営管理者から見た結果及びプロセス目標」。
■KPIはトップダウン型で
KPIを設定するにあたって、なぜ、ボトムアップ型ではなく、トップダウン型でなければいけないか。ここは重要だ。
ええい、筆者はネタバレはしないよ。
■KPIマネジメントとは
「KPIマネジメント」とは、会社の目標達成度を測るための指標であるKPIを、部門別、個人別に設定し、マネジメントサイクルを回すことだ。
まず会計の話。【当期首B/S(資本)】➡【「当期P/L」プロセス→マネジメント→利益】➡【期末B/S(資本)】、
この循環は会計をかじったことのある読者ならおわかりであろう。
KPIの本質とは、期末B/S(資本)を「マネジメントプロセス」にインプットすることにより、経営資本を間接的に人的資源に投資し、ヒトのパフォーマンスを上げて利益を生むP/Lを創り出す、この好循環を構築することだ。
現実的に、マネジメントプロセスにおいて、実際に働いているヒトにパフォーマンスを上げてもらわないと、会社は利益を出すことができない。そこで登場するのが、「人件費投資効率」、すなわち「ROH」(Return On H(Investment for Human))ってものだ。式にすると、限界利益/人件費。この指標が〇〇〇%(ネタバレはしない)超であることが、企業継続の必須条件だ。これを達成することがマネジメントの目的であり、その具体的方法論として「KPIマネジメント」が必要とされる。
■KPIマネジメントのキーワード
本書ではキーワードとして、①限界利益、②機会損失、③人件費コスト、④適正人員、⑤直間比率を挙げている。これらを定量化することは、ヒトのパフォーマンスを改善することによって利益の最大化を目的とするプロセスマネジメント、すなわちKPIマネジメントにとって、必要不可欠な視点だ。以下、ポイントをメモしておこう。
①限界利益
この限界利益率、業種によって、おおよその傾向がある。その一例として、〇〇が参考になる。なるほど!これは気づかなかった。ネタバレはしない。
②機会損失
マネジメントの最大の敵、それはムダ(ミス)だ。「シックスシグマ」というマネジメントツールでは、企業のすべてのプロセスにおいて発生するミスを積算すると年商の10%以上に達するといわれる。企業のムダには「実際損失と機会損失」という2種類がある。実際損失は、クレーム処理費用とか。本書は、機会損失も定量化しようとする。
③人件費コスト
ここで登場するのが、「〇秒=〇円」という考え方。本書を参考にされたい。
④適正人員
適正人員の求め方について詳しく説明している。
⑤直間比率
直間比率、つまり直接部門と間接部門の比率。これは絶対的な指標はないが、〇〇〇〇〇から逆算するとその答えが見えてくる。
■KPIマネジメント導入・運用で成功する4つのポイント
ポイント①トップダウンであること。
a)予算を分解してトップダウンで落とす
ポイント②定量化されたものであること。
a)目標は必ず定量化する
・目標値は定量化されているだけではダメ。等号、不等号の判定基準があること。
・定量化できないテーマはない。
b)機会損失防止、実際損失防止、売上・利益伸長の目標を設定する
c)月次の定量化で人事考課にも活用できる
・「KPIテーマ」を適切に毎月設定し、目標値を定量化することができれば、結果は毎月自動的に出るため、「考課者訓練」のようなものが一切不要になる。
ポイント③業績向上に連動するものであること。
a)売上、変動費、限界利益、固定費、営業利益と必ず連動させる
・P75の「KPIマネジメントのテーマ関連図」は、著者の奥義、マネジメント・ウエッブではないか。より詳しく知りたい方は、本ブログの参考文献を見られたい。
b)目標設定の具体的手順
・KPIマネジメントの成功において最も重要なことは、「結果目標とプロセス目標」とは、その影響の大小はあれど、常につながっていて連動するということです。
・KPIとは、このように計画を立て、毎日、毎週、毎月、過去そして将来にわたってチェックして改善するものです。まさにマネジメントサイクル(PDCA)の実践なのです。
c)結果をプロセスに連動させる
ポイント④毎月フォローアップを確実にすること。
a)毎月集計・評価を行う
・業績向上につながるKPIを運用するためには、あくまでもこれを月次決算と連動させることが必要です。
b)「敗者復活制度」をつくる
c)原因分析と改善はどうやって行うか
■マネジメントを成功に導く7ステップ
マネジメントとは、「企業利益を生み出すために、与えられた経営資源(ヒト・モノ・カネ)をうまくやりくりする方法論」だ。その目的は、次の2つに集約される。
①業績を確保し、会社を継続させ、雇用を守ること―会社及び従業員目線からの目的
②顧客満足、成果配分を通じて社会の公器として貢献すること―投資家(株主)や社会からの要請
そして、この目的を達成するために、以下の7つのステップを実行していく。
【ステップ1】経営資源である、ヒト・モノ・カネを、地盤にしっかり打ちつけます。
【ステップ2】全従業員が8S(整理、整頓他)を徹底して、土台を強固にします。
【ステップ3】スキルの方程式=「目標×スキル×プロセス×やる気」を実践します。全従業員が目標(KPI)を持ち、スキルアップを実践し、プロセスを改善し続けます。そしてモチベーションとしてやる気の出る評価制度を構築します。
【ステップ4】顧客満足の3要素(Q:品質、C:原価、D:納期)という柱を立てます。
【ステップ5】知識を行動に変えることで、良質な商品・サービスを提供して顧客満足を獲得し続けます。
【ステップ6】顧客満足は企業利益をもたらし、その利益は、納税・配当・内部留保・決算賞与・再投資などの原資となります。
【ステップ7】継続的改善を繰り返します。
この7つのステップを実行し、成果を上げていくうえで鍵になるのがKPIテーマの設定だ。このテーマは、それ自体が単独で存在するものでなく、あくまでも、
●全社テーマ→部門別・階層別テーマ→個人別テーマ、というトップダウンで連動して設定されるものであり、そのうえで、
●個人別テーマ達成→部門別・階層別テーマ達成→全社テーマ達成、というボトムアップで結果が連動していく構造であることを、今一度確認して、部門そして個人のテーマを設定することが必要だ。(P109の図は秀逸)。
■感想
本書の書名は、2時間でわかる図解KPIマネジメント入門。ちなみに、私はさらっと通読で15分。この読書ノートを書くのに要した時間は、約4時間。2時間集中して読めば、十分にKPIマネジメントの基本について理解できる内容だ。類書の堅苦しいKPIについての書物よりも、よりわかりやすい本書。ぜひとも、読者の皆様にお勧めしたい!
■参考文献
堀内智彦『アナタの会社の埋蔵金(ムダ)を利益に変える本』B&Tブックス日刊工業新聞社
堀内智彦『実践!原価管理 事例でわかるコストマネジメントのツボ!』秀和システム
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